かつてオフィスのインターネット回線といえば有線のLANケーブルでつなぐのが一般的でした。しかし、近年ではWi-Fi回線や機器の性能が向上しセキュリティシステムも強化されたため、無線LANやWi-Fiを導入する企業も増えてきました。そこで、オフィスにWi-Fiルーターを導入するメリットやセキュリティ規格などについてご紹介します。
オフィスにWi-Fiルーターは必要?
モバイル機器の発達やクラウドサービスの発展、それによるフリーアドレス制の導入などにより、業務でモバイル端末を使う機会が多くなってきました。同時にWi-Fiルーターの性能やセキュリティシステムのレベルも向上し、オフィス使用にも耐えられるようになってきました。
セキュリティ規格や帯域って?
Wi-Fi通信にはセキュリティ規格や電波帯域の違いがあります。それぞれどのように異なるのか見ていきましょう。
セキュリティ規格
2019年現在、Wi-Fi機器で使われている主なセキュリティ規格はWEP、WPA、WPA2の3種類です。WEP→WPA→WPA2の順で登場しましたので、もっとも新しいWPA2がもっともセキュリティレベルが高く、より安全だと言えます。2018年6月にWPA3というさらに高度なセキュリティ規格が登場しましたが、まだまだ普及はしていません。
基本的にはWPA2を使えば良いのですが、パソコンやプリンタなどのOA機器が古いタイプの製品だと、WEPにしか対応していないものもあります。WEPは安全性が低いため、今では使用が推奨されません。できるだけ、WEP2に対応したOA機器を使用するほうがが安全といえるでしょう。
暗号化
通信内容を第三者に見られないようにするのが暗号化です。暗号化にはTKIP方式とAES方式の2つがあります。AES方式がセキュリティ的に安全になりますですが、これも機器によって対応している製品としていない製品がありますので、使用するOA機器がどの方式に対応しているのかを前もって調べておきましょう。
電波帯域
電波帯域とは通信する電波の周波数の幅のことになります。Wi-Fi機器の主な周波数帯は5GHz帯と2.4GHz帯です。5GHz帯のほうが他の回線と干渉せず通信速度が速いものの、障害物に弱いというデメリットがあります。2.4GHz帯は他の回線の干渉を受けやすく、通信速度は遅いものの、遠くまで届くというメリットがあります。ただし、プリンタなどのネットワーク機器の場合には2.4GHz帯にしか対応していないものもあります。
オフィス内だけで使用する場合には問題ありませんが、2019年現在で5GHz帯の一部(5.3GHz帯)は屋外での利用が禁止されています。5.3GHz帯を利用するWi-Fi機器はベランダなどでも利用はできません。また、5.2GHz帯の屋外利用には以下のような条件がありますので、確認してから使いましょう。
・人工衛星に影響を与えないよう工夫された専用の機器を利用する
・アクセスポイントや中継機については、事前に総合通信局に「登録局」の手続きをする
・気象レーダーに影響を与えない場所で利用する
「IEEE802.11a」や「IEEE802.11b」という最大通信規格が異なる無線規格もあります。略して11aや11bと呼ばれることも多いのですが、これらの規格もWi-FiルーターとOA機器で対応する規格を合わせる必要があります。5GHz帯には「11a/11ac/11n」に、2.4GHz帯は「11b/11g/11n」に対応していますので、それぞれ確認しておきましょう。
オフィスにWi-Fiを導入するメリット
オフィスにWi-Fiルーターを導入するメリットについて見ていきましょう。
見た目がすっきりする
有線LANの場合、オフィスのレイアウトによってはLANケーブルが長くなってしまうこともあります。しかしWi-Fiならこれらのケーブルがなくなるために配線的にも見た目的にもすっきりします。また、ケーブルを傷つける心配や配線処理の時間的コストも必要なくなります。
レイアウトの自由度が上がる
Wi-Fi電波が届く範囲内であれば、どこからでもインターネットにアクセスできますので、オフィスレイアウトを変更したときでも面倒な配線工事がいりません。スマートフォンやタブレットなど、モバイルデバイスを使った業務でも活躍します。
業務の効率化が図れる
有線LANが近くなくても、いつでも手元のノートPCやスマートフォン、タブレットで必要なデータを確認できるので業務効率が上がります。
フリーアドレス制と相性がいい
上記のような内容は自分専用のデスクを設けないフリーアドレス制を採用したオフィスとも非常に相性が良いものです。フリーアドレス制を採用するとオフィス内のどこにいるかわからなくなることもありますが、それでも連絡がつきやすくなるため、急なトラブルが起きてもスムーズな対応が可能です。それぞれが集中しやすい場所で自由に業務を行えますし、機器の設置変更にかかる人的コストや時間的コストも削減できます。
拠点間の移動がしやすい
支店や営業所への出張時、打ち合わせで使う資料を事前にプリントアウトして持ち歩かなくても、普段のノートPCやタブレットにデータを保存しておき、現地ですぐにプリントアウトできるようになります。この方法のほうが作業的に楽な上に間違いが起きにくいですし、急に問題点が発覚してもすぐに対応可能です。
Wi-Fiルーターを導入するデメリット
逆にデメリットと、その解消法についても見ていきましょう。
回線スピードが有線と比べて遅く、安定性に欠ける
Wi-Fi機器とインターネットを使用する機器との間に遮蔽物があると電波が弱くなりやすいため、有線と比べて通信速度が遅く、通信状態が不安定になるという場合があります。しかし、最近では有線LANに劣らない速度が出る通信規格に対応するWi-Fiも発売されているため、それほど顕著に差がでるほどはありません。
○解消法
遮蔽物:Wi-Fiルーターとインターネットを使用する機器との間に、壁やパーティションが入らないようなレイアウトにする
回線スピード:有線LANにも劣らない通信速度が出る最新のWi-Fiルーターを選ぶ。高速な通信規格を利用できるWi-Fiなら、有線LANと比べ多少回線スピードが遅くても気にならない
安定性:利用する人数や社内のアクセス状況に応じ最適な台数やスペックを選ぶ
セキュリティ面でのリスクがある
Wi-Fiのセキュリティは進歩してはきているものの、有線LANと比較すると外部からの攻撃を受けるリスクはやや高くなります。よくあるのは、Wi-Fiルーターのパスワードを解読されて、悪意のある第三者がサーバーへと不正アクセスするケースです。データ改ざんや情報漏えいにつながることもありますので油断できません。
○解消法
WPA2-AESといった強固なセキュリティ規格に対応したWi-Fiルーターを選び、OA機器についてもWi-Fiルーターのセキュリティ規格に対応した製品を揃えるのがベストです。そのほか、SSID(無線アクセスポイントの識別名)の情報を隠せるような機能を使って外部にWi-Fiの存在を知らせないなど、複数のセキュリティ対策を組み合わせて使うとより効果的でしょう。
トラブルに対応しにくい
Wi-Fiは、ネットワークに関する知識も有線LANとは異なります。社内に詳しい人物がいない場合には、誰かがWi-Fiに関するネットワーク知識を勉強していかなければなりません。
プライベート利用に気づきにくい
Wi-Fiは有線LANと違い、誰がどこでどのように接続しているかが目に見えるわけではありません。そのため、SNSの利用や動画のダウンロードといったプライベートでの通信に利用している社員がいても気づきにくいというデメリットがあります。
○解消法
ITリテラシーを社員に徹底するとともに、プライベート利用が発覚した場合の罰則など、社内規定をあらかじめ作成しておきましょう。
Wi-Fiルーターの選び方
Wi-Fiルーター選びは、以下のポイントに注意しましょう。
- 同時接続台数(会社の規模に合っているかどうか)
- 通信規格が機器に対応しているかどうか(セキュリティ規格、帯域も含めて)
- VPN(Virtual Private Network/仮想専用線)機能やファイアウォール機能など、付加機能も必要に応じて選ぶ
まとめ
Wi-Fiの使用は、有線LANを使用するよりもオフィス内がすっきりしてレイアウトの自由度が増します。フリーアドレス制との相性も高いものがあります。メリット・デメリットを十分理解した上で自社の体制や事業計画に合ったWi-Fi機器を導入しましょう。